PICK UP!銃はキャラクターの代弁者たるべし〜名作冒険小説『深夜プラス1』【読まずに撃てるか!】

2016年08月05日

コラム 企画

DSC_0633Gunマニアに愛され続けるギャビン・ライアル著の名作冒険アクション

イギリスの作家ギャビン・ライアルが1965年に発表した冒険小説『深夜プラス1(MIDNIGHT PLUS ONE)』。富裕層を相手にビジネス・エージェント(トラブル解決人)として生計を立てる主人公ルイス・ケインと、その相棒となる凄腕ながらアル中のガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルが警察と殺し屋の双方に終われる無実の実業家を護送するという、ハードボイルドタッチの冒険小説である。

英国推理作家協会賞を受賞し、日本でも多くのファンを魅了。日本推理小説協会の会長である故・内藤陳氏が経営するバーの店名になったのは有名だ。

今回の画像は筆者所有のハヤカワ文庫・菊池光氏訳の旧版(その後カバーデザイン変更にて再販)であるが、現在はハヤカワ文庫より鈴木恵氏訳の新訳版が発売されている。

【STORY】

かつて第二次世界大戦において、レジスタンス支援のための工作員として活躍した“ムッシュウ・カントン”ことルイス・ケイン。今は富裕層を相手にトラブル解決のエージェントとして生計を立てる彼は、ある日地下活動の同志で今は弁護士のアンリ・メルランに呼び出される。無実の罪で警察から指名手配され、さらに何者かに命を狙われている大富豪のマガンハルトを中欧リヒテンシュタインまで送り届ける仕事の依頼であった。ケインは護衛を兼ねたドライバー役を引き受ける。

仕事の相棒に選ばれたのは元シークレット・サービスの凄腕ながら、殺しへの罪悪感から酒に溺れるガンマン、ハーヴェイ・ロヴェル。不安を覚えながらも他に選択の余地がないケインは仕事中の禁酒を条件をロヴェルに突きつける。そして、2人はフランスのブルターニュでマガンハルトとその秘書のヘレンと合流し、目的地を目指し出発する。

元レジスタンスの手強い殺し屋たちの襲撃をかわし、警察の包囲網をくぐり抜け、過酷な旅が続く。そんな中、ケインたちはマガンハルトから敵の罠によりあと36時間以内に目的地に到着しなければ自身が経済的に破滅すると聞かされる。不安から酒の誘惑を受け入れるロヴェル・・・。

やがて、正体不明の敵がマガンハルトの死を望んでいること、裏切り者が存在することを確信したケインは、銃弾と陰謀にまみれた熾烈な旅の最終章へアクセルを踏み込むのだった。

 

【1932年型モーゼルと銃身2インチのスミス&ウェッソン・38スペシャル】

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●モーゼルM712/ M1932(主人公ルイス・ケイン使用銃)

どんな銃だ、とききかけたので、「一九三二年型のモーゼルだ」と教えた。
彼にしてはひじょうな驚きの表情なのであろう。表情が凍り付いた。
「あのデカイやつ?レバーを切り換えると全自動になる、あれか?」
「そうだよ」
〜(中略)〜
「トレイラーにのせて引っ張って行くのか」彼がきいた。「それとも貨物列車で先におくっておくのか?」
私はニヤッと笑った。俗に〈箒の柄(ブルーム・ハンドル)〉といわれたあの旧式のモーゼル銃、特に全自動切り換え
装置をつけた一九三二年型にはまずい点は多々ある。目方は三ポンドもあって全長一フィートもある。
握りの部分が不安定で、全自動で発射すると怒った猫のように手の中で跳ね返る。しかし、長所もあるのだ。
認める、認めないは当人の勝手である。

ハヤカワ文庫『深夜プラス1』菊池 光氏訳 P27〜P28より

ケインが小さなホテルの一室で、ロヴェルから仕事に銃を携行するのか尋ねられた際の描写である。正式なモデル名は表記されていないが、1932年型の“シュネルフォイヤー(速射)”ことモーゼルM712/M1932モデルのことであろう。いわばマシン・ピストルの先駆けたるドイツの名銃だが、拳銃としては規格外の大きさと重量を誇り、〈箒の柄〉と揶揄されるグリップとボディのバランスの悪さなど確かに不利な点も多い。しかし、本編のクライマックスにおいてモーゼルの本領が発揮される描写があり、過去に追われ過去を引き摺りながらも決して諦めないケインという男の真価とたぶり感動すら覚えるのだ。時代遅れの銃と男の戦いはなんと魅力的に映えるのだろう。

 

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●S&W M36(相棒ハーヴェイ・ロヴェル使用銃)

銃身二インチのスミス・アンド・ウェッソンで、.三八スペシャルが五発こめてあった。どこにでもあるようなごくありふれた銃である。
ただ違うのは、にぎりをよくするために木部が少しつけたしてあった。それも仰々しいものではない。一本一本の指の位置をきめるための切り込みもなにもない。
だいたいあんなものは指の位置をきめるのに五分くらいかかる。切り込みのある拳銃などというのは日曜日の午後に標的練習をする素人の専用品だ。
〜中略〜
しばらく待ってからまた声をかけた。「銃の中には五発しか入ってないな。何で自動拳銃を使わないのだ?」
「相手に損害を与えるのには三十八口径の弾が必要だ」意識して平静な声を出している。
「三十八口径の自動拳銃は重すぎて形もはるかに大きくなる。途中で動かなくなることもあるしね」

ハヤカワ文庫『深夜プラス1』菊池 光氏訳 P24〜P25より

先ほどの描写の直前、ケインがロヴェルの所持する拳銃を見てのやりとりである。小型軽量化のため弾数を5発にした S&W M36(チーフスペシャル)は、現代においても法執行機関の捜査官や警官のバックアップや女性の護身用として愛用されているロングセラーモデルだ。モーゼルを使用するケインとあまりにも対照的なチョイスであるが、凄腕のガンマンながら人を殺すのに罪悪感を抱きアル中となったロヴェルの「殺しは必要最低限にしたい」という心情を見事に現している。その反面、5発でも敵にダメージを与えられるという彼のガンマンとしての自負のようなものが見え隠れして、その複雑な内面を代弁しているようだ。

 

そして、ストイックなケインが危険な任務にアル中のロヴェルの同行を認めたのも、前述の

しかし、長所もあるのだ。
認める、認めないは当人の勝手である。

というケインの信条によるものだろう。ロヴェルの銃の選択にも同様の見解を見せ、アル中という欠点に不安を抱きながらも銃に余計な手を加えず、あくまで握りの調整という堅実な処理のみを施す彼の本質を見抜いた故だろう。シトロエンDS,1932年型モーゼル、アル中の相棒・・・。リスキーな面もあるが彼が直感で長所を見いだしたものに対しては信頼を寄せ最後まで寄り添おうとする。それがケインの流儀なのだ。

そして、その流儀は非情に見えて、痺れるようなロマンと友情、ストイシズムに満ちあふれたラストで最高潮に達する。その無骨で荒っぽい優しさ実践する際にもモーゼルが使用されるのだ。時代遅れのヒーローの代弁をする時代遅れの銃。

数ある冒険アクション小説において、これほどキャラクターと銃が寄り添った傑作は他にないだろう。

必読の一冊。

読まずに撃てるか!

 

 

 

 

 

 

投稿者:ToyGun.jp編集部